職員室

吉備高原小学校


 学校の未来を想像するには、現在、産業界で起こっていることを観察することが参考になります。なぜなら、「学校経営学」は常に企業の経営を参照してきたからです。銀行マン出身者が中学や高校の校長になる時代です。教員の仕事だってその仕事量を数値ではかって偏りなく配置できるはずだ、と静岡県沼津市立沼津高校の校長は考えます。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20061124us41.htm
 ここでは校長は職員室に常駐し、先生が教頭と校長に同じことを伝える時間を節約しているそうです。
 ところで、日本IBMという会社は、営業部門の職場から個人用のデスクを廃止しています。
http://www.nikkeibp.co.jp/archives/333/333132.html
顧客への訪問が仕事の営業担当者に個人机はいらない、というわけです。

〈仕切り壁のない室内には、4〜6人掛けのテーブルが300〜400人分だけ並ぶ。ここで仕事をするときはどの机を使ってもよく、社員は自分専用のノートパソコンとロッカーを持つ。試行期間の社員の反応は、「顧客への訪問時間が約4割増」「社員間の会話が活発になった」などが多かったといい、同社は2005年末までに箱崎事業所内にいる全営業担当者約5000人にこの仕組みを広げる予定だという。〉

 ここにあるように事務所はオープンスペースなのです。個人の机が並んでいる事務所ではないのです。ノートパソコン一つあれば、どのテーブルでも作業できるから個人机は必要ない、と。LANやインターネット経由で文書なども自由に参照・送信できるというのですから書類の束もいりません。社長や上司は各テーブルで作業している社員に声をかけて回りますから、社長室や役員席でふんぞり返ってもいられません。昔の会社のイメージは「○○君、ちょっと社長室まで来るように」で、○○君は社長室むけの顔をつくって出かけていきましたが、オープンスペースの事務所では社員は普段の顔を見られるわけです。
 「○○、すぐに職員室の××まで来なさい」と校内放送がはいると、○○君は、「やばい、おこられるのかな」と思ったりしたものでした。ところが荒れる学校では、教員は職員室などに座っていられないわけです。
http://www.geocities.jp/minohteruteru/teruteru/physical/taiiku10.html
 教員は学校の中をすべて見わたせる必要がありますから、職員室より廊下とか階段に「常駐」したりしている。

〈「校舎内から死角をなくす」ことも徹底した。荒れた学校は職員会議が増えるが、前田校長は逆に会議を大幅に減らし、校舎の隅々にいつも教師がいる状況をつくった。各教室前の廊下に木製ベンチを置き、校長室と職員室のドアも開放し生徒と教師が談話できるよう気を配った。〉
http://www5.hokkaido-np.co.jp/kyouiku/education/03/07.php3

 しかし、学校の中だけ見ていればいいのではないのです。下記の引用は文部科学省のサイトから「門等における不審者侵入防止の対策事例」。
〈○ 職員室等については、来校者の動線や屋外運動場を見渡すことができ、不審者侵入時にも即応できるような位置に配置することが重要である。〉
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/06030611/005.htm
 これは現場の取り組みから見ても不十分。教員はすでに校門当番などで動いています。職員室のまどから見えるといったって、悠長に窓の外を見ている時間など教員にはないですから。ズレてますね。職員室の廊下には「さすまた」が備えてあったりします。
http://members.edogawa.home.ne.jp/koretaka1/sagjyo.htm
 とうぜんというか、この流れでは、職員室の窓ガラスは、磨りガラスから透明なものに取り換えられたりもしますが、
http://www.miyazaki-c.ed.jp/takachiho-takachiho-e/renkei-3.pdf
 これを先取りしていたのがオープンスペースを導入した学校です。職員室も校長室もガラスばりで、学校の中を通っている公道からもまるみえの吉備高原小学校(写真)などがそうです。
http://www.ujiturn.net/intern/report/experience/t_a10/wada/t_a10_02.htm
 「職員室」なるものがあると、そこが攻撃の対象になり、窓ガラスをわられたり、
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070629-00000004-agara-l30
 幼稚園の職員室に侵入して家庭調査票を盗み出し、その調査票にもとづいて園児の家に盗みを計画するなどの犯罪のターゲットにもなります。
http://www.security-joho.com/topics/2003/tyousahyou.htm
 これらを解決するには、職員室をなくすことでしょうな! 教員は常に廊下や階段やトイレにうろうろしているほうが、「生徒の相談にのりやすい」でしょう! 外部からの侵入者に機敏に対応できるでしょう! 交番をみてごらんなさい。警察官は常に街に出かけて「営業」に専念しているから机はいらんのです? 教員は廊下にテーブルをおいて作業してはどうか? ただしノートパソコンは無線回線を通して「データ」が外部にもれるおそれがあるから持たせませんがね。
 かくて「職員室」の未来は「消滅」と出ましたが。いかがでしょうか?
 もちろん、これを理論化するにあっては、上記のような治安対策などを論拠にはしません。オープンスペースの法則というのがあるそうです。これが使えそうですね。

〈Owenが、オープンスペースの1つの法則は「主体的移動の法則(The Row of Two Feet)」だと述べている。これは、何も学べないし貢献もできないと分かったら、もっと生産的な場所に移ったほうがよいというものだ。つまり、セッションの移動は普通だよってことだ。〉

http://capsctrl.que.jp/kdmsnr/wiki/bliki/?OpenSpace
 でも、こうなったら「何も学べない」といって教員がやめてしまうかもね。