夏休み

夏期学習帳


 学校で毎週土曜日が休業日になったのは2002年4月ですから、まだその歴史は浅いですから、休業土曜がだんだん授業でうめられていく趨勢に抵抗できないかもしれません。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/education/54840/
(土曜日も「学校へ行こう」 教育再生会議で提言)
 ですが、夏休みは大丈夫だ。なにせ夏休みの伝統は古いですから。企業がどんなに学校を企業社会に近づけようとしても、夏休みばかりは「学校らしさ」の最後の牙城だろうとは思っているのですが、どうも状況はきびしいですねー。
 佐藤秀夫先生によりますと、日本の学校の夏休みは欧米学校での風習の移入ですから、たとえ学校にエアコンが導入されて、暑くて勉強できないという理由がなくなったとしても夏休みは健在だとはいえましょう。なにしろ欧州の夏休みは「暑いから」ではなくて、太陽を求めて南へ下るバカンスのためなのですから。そういう「先進国」モデル意識が安泰な限り夏休みがなくなることはないと思うのですが。
 でも佐藤先生の『学校教育うらおもて辞典』(2000 小学館)によれば、1880年代に法制化された「夏季休業日」「冬季休業日」が1941年4月以降の国民学校の時代には「夏季ニ授業ヲ行ワザル日」とされ「休業日」ではなくなった時代があると書かれていて不安になりました。軍人が「月月火水木金金」であるのに銃後の少国民が「休む」とは何事か! という「建前」と勤労動員の必要からだそうです。この「統一指向」ごろごろありますねこの国は。
 解放教育運動の時代に兵庫解放研の熱心な教師が「夏休みはないほうがいいい」と発言していましたね。なぜなら、せっかく4月5月6月と学校での生活になじんで落ち着いてきたゴンタたちが、夏休み後にまた荒れ出してしまうから、だそうです。
 この夏休み前後の生徒の指導についての悩みは保護者や学校の「熱心な」教員にはずっとついて回っているようです。
http://benesse.jp/berd/center/open/kou/view21/2005/09/07genba_01.shtml
(夏休み前後の指導 生活習慣の乱れ、学習意欲の低下を元に戻すには?)
 こういう夏休みに子どもたちが「野放し」になる心配というには、これも伝統的にあったわけで、夏休みの宿題に「夏休みの友」という勉強ノートがありました。印刷された学習ノートはすでに明治の末期からあったということです。
http://www.maboroshi-ch.com/sun/school.htm
まぼろし第2小学校  串間努  ☆注 ここのサイトは一見の価値ありです)
串間氏によりますと、

〈戦時中は軍国主義的な要素が取り入れられ、昭和一七年からは文部省国民教育研究所が夏休み帳を発行するようになった。このころのものは国家が読み物として与えるタイプで児童が書き込む欄がなかった。戦後は学習参考書メーカーの発行というよりは各都道府県毎に編集されており、発行は府県の教育会や教職員組合となっている。〉

 ですから、上から下まで、大人たちは、みんなで夏休みの「不安」を抱いているわけです。これからの子どもたちは「夏休み」がなくなる「不安」を抱くだろうな、と子供時代に夏休みをわくわくしながら過ごしたおじさん・おばさんは心配するのです。
 ところが、どうも最近の子どもたちは夏休みはそれほどうれしくないのかもしれないな、と疑っています。地域社会の解体したところでは、学校は子どもたちにとってただひとつのコミュニティの「場」であるわけですから「場」がないと集れないで「遊べない」のではないかと推測します。
 現実に、小学校でも、夏休み期間はだんだん短くなっています。「ゆとり教育」がさけばれていた時代から兵庫県の小学校では、夏休みを利用した自習教室や補習授業への取り組みが広がっていたようですし、
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sougou/020725ke67440.htm
京都市の学校では、「学力向上プラン」の中で、授業時数10%増のために、朝学習や夏休み補習、土曜補習などの実施が求められている、ということで、全員参加型の補習を行う学校が5割以上に増加したそうです。
http://www.kyoto-shikyoso.ne.jp/info/2007/06/23-141008.php
http://ed.shogakukan.co.jp/cgi-bin/newshedline.cgi?selDate=20060728&type=backnum
 こういう夏休みの取り組みは、会社では夏休みがない保護者には支持されるし、どうせ「勤務」で学校に出なければならない教員のほうも、内的には「夏休み」は消えているのです。京都府立桃山高等学校では、夏休みには10日間、冬休み・春休みには各5日間の必修の補習授業をしています。
http://www.kyoto-be.ne.jp/momoyama-hs/ec/page01.html
東京都立日比谷高等学校では、

〈9時限まである時間割、随時開かれる補習や、100講座を超える夏期講習……夏休みの講習は、予備校を凌駕する100講座を超える膨大な数を用意しており、土曜日には講習や補習が随時開かれる。土曜日には自習室を開放し、現役大学生のOBがサポートティーチャーとして支援している。また、希望すれば1年次に数学演習、2年次には数学演習やハングル、フランス語、中国語、ドイツ語などを履修することが可能である。〉
http://www.geocities.jp/kouritsustoritsu/hibiya.html

 公立高校は、土曜日休業がない私学や予備校に対抗する必要上、土曜も夏休みもほとんどなくなるというわけです。

 やがて何十年か後には、吉田拓郎の「夏休」や高校の音楽の教科書に載っている井上陽水の「少年時代」などの情感はわからなくなるのではないでしょうか。
http://www.hi-ho.ne.jp/momose/mu_title/natsuyasumi.htm
http://www.hi-ho.ne.jp/momose/mu_title/syounen_jidai_a.htm


写真はhttp://www.maboroshi-ch.com/sun/school.htmより
串間努氏は「まぼろし小学校―昭和B級文化の記録」など面白そうな本をたくさんだされていますねー。夏休みの読書にはもってこいという感じですね。